海外移住の影を本から読み取る。年金夫婦の海外移住【書籍紹介】

海外移住を考える人のための本は、探してみると意外と少ないものです。

各国の移民政策やビザ関連は動きが激しく、すぐに情報が古くなってしまうためでしょうか。

しかも、海外移住のネガティブな面ににスポットライトを当てた本など、そうそうお目にかかれません。

この本の刊行は2008年となっており、9年以上前の情報です。

しかし、この本で書かれている問題の本質は現在も変わりはないでしょう。

ネットやメディアではまず書かれない負の側面が、現地移住者のナマの声で集められているため、貴重な資料です。

本の概要

年金夫婦の海外移住 著:出井康博(小学館)

著者の出井氏は、英字紙「ザ・ニッケイ・ウィークリー」の記者を経て、フリーで活動するジャーナリストです。

現地で暮らす年金生活者へのインタビューが週刊ポストに短期集中で連載され、大幅加筆したものが本書となっています。

海外生活には、日本で味わえない楽しみもある反面、苦労もつきものだ。「光」と「影」があるとすれば、本書では極力、現地で暮らす日本人が直面した問題や失敗談に焦点を当てるように心がけた。

メディアでは、何か特別な事件でも起きない限り、ネガティブな情報が伝えられないからだ。

海外移住を考える際、楽しい面はいくらでもどこからでも知れます。だけど、重要なのはその裏側。私はこれが知りたかったのです。

本書は会社を退職し、年金生活を送る年配の方々が取材対象となっていますが、海外移住を試みる方なら誰でも読んで損のない内容です。

目次抜粋

第一章 「月10万円で夢の生活」は可能か?(マレーシア編)

第二章 「親切な日本人」が一番危ない(マレーシア編)

第三章 「桃源郷」に暮らす(タイ編)

第四章 増え続ける「困窮日本人」(タイ編)

第五章 終の住処を求めて(フィリピン編)

読み終わった感想

「増え続ける困窮老人」という言葉が刺さりました。

各国が移民を受け入れる理由は、……少なくともこの本の中の時代に、アジア各国が求めていたのは、ジャパンマネーです。

物価の安い各国で、日本のリタイア世代がもたらす経済効果は、魅力的だったのでしょう。

たしかにアジアへの移住で満足を手に入れて暮らしている人もいます。が、その反面で困窮して追い出される人も増えているのです。

なぜ困窮してしまうのか?

リタイアメントビザでは労働を許可されていない場合が多いからです。

働けないなら、持っている資産をできるだけ減らさないように、賢く節約して、余裕を持った暮らしを心がけなければなりません。

それを阻むのが以下の2点であり、海外移住に重要なキーワードだと感じました。

キーワード1:現地語

海外に行って日本語だけで通そうとするか、それともその国の言葉を使えるようになろうとするか、それは各人のポリシーもあるでしょう。

ですが、資産家などお金に絶対的な余裕がある人以外は、やはり現地語を覚えるべきだと思います。

現地に信頼できる友人知人が複数いる場合はいいですが、そうでない場合、現地語を使えないことはお金のリスクに直結するからです。

怪我や病気の対応

治療や長期の療養を必要とする場合、医師や病院のスタッフと細やかな意思の伝達ができなければ、問題が起こります。

①医師が病状を正確に把握できない

患者が、どこがどう痛いのか辛いのか、身振り手振りで伝えようとしても限界があります。

そうすると、医師も判断に困る場合が出てくるでしょう。適切な治療を受けられない可能性が高まります。

②患者が、薬や検査、治療方針についての説明を理解できない

なんとか医師が判断を下しても、処方される薬や、受けろと指示される検査、その後の治療方針について日本語の説明を求めることはできません。

理解できなければ、不安は余計に募ります。

本文中にこんな例が紹介されていました。

……日本にいたときから肝臓に不安があった女性が、現地でかかりつけ医をつくっておこうと、ある病院をたずねたときのこと。

日本で渡されていた処方箋を医師に診せると、とにかく一度検査をと言われ、意味の分からない検査を受けさせられた。

そののち、「これを飲むように」と渡された薬を、帰国の際に日本で専門医に見てもらったところ、その薬は重い肝疾患向けであり、一度飲み始めたら止めることはできないものだった。

また、受けさせられた検査は肝臓移植患者のためにするものだったと判明した……というもの。

その女性にはどちらも不要なものでした。

たまたま帰国してわかったからよかったものの、そのまま現地で治療を続けていたら、もっと大きな問題がおきていたかもしれません。

この女性は、「だから現地の病院は信用できないんです」と締めくくっていましたが、現地語できちんと意思の疎通ができていれば、違う結果がでていたかもしれません。

信用できないからと帰国して治療するとなると、予想外の出費です。何回も行き来すればその額は跳ね上がります。

日本の国民健康保険には、海外療養費制度というものがありますが、利用できるのは資格を保持して健康保険料を払い続けた人だけであり(当然ですね)、その手続きも煩雑だそうです。

しかも治療方法や為替レートによって戻ってくる金額は左右されます。これを頼れば大丈夫というものではないのです。

大きな買い物をする際の不安

信用できる知人友人がいない場合、

土地・家・車など、大きな買い物をする際には、自分が探した仲介業者や通訳をお願いすることになるでしょう。

が、その業者が信頼できるかどうか、それを判断するには、現地語ができなければ相当不利です。

間に入ってもらった人が日本人だから大丈夫というわけでもなく、日本人が日本人を騙すというケースも多発しているとのこと。

家を買うほどの大きな買い物でなくても、物価が安いからと、日本にいるときより軽い気持ちで契約する方もいるようです。

が、その価格が足元を見た販売店のぼったくりではないか、複数のソースをあたって調べるにも現地語ができなければ難しい。

日本でなら騙されないはずの詐欺案件に騙されて何十万円、何百万円という損害を出すことになるのです。

働いて取り戻せる年代ならなんとかなることも、労働を許可されていないビザの場合は、ダメージが大きいですね。

キーワード2:現地への適応

現地で日本人と付き合えば付き合うだけ出費はかさむそうです。

日本人会の集まりでは日本食レストランに入ったり、お酒を飲む機会も増えるからということのようです。

外国では日本食はもちろん割高です。また例えばマレーシアはイスラム国家で、アルコール類への税金が高く設定されています。

「日本と同じような感覚で飲んでいると、驚くような額を請求される」という描写がありました。

外国にいて日本人としか付き合わず、日本のような環境を求めれば、高くつくのは想像できます。

日本人社会との距離の取り方が海外移住の成否を決めるカギであるという著者の意見には、説得力がありました。

一方、現地事情を理解し、うまくなじむことができれば、大幅なコストダウンを見込むこともできます。

例えば醤油ひとつ買うにも、日系スーパーで選ぶことしかできないのと、現地スーパーで似たようなものを見つけて代用するのではどれだけの差があるのでしょう。

言葉を覚えて現地の人といい人間関係を築くことができれば、さらに節約のヒントがたくさん見つかりそうです。

物価の安い国でも、場所への適応ができないと結局日本より高くついてしまうということですね。

年金世代の人がアジア各国へ移住するのは物価の安さを見込んでの場合が多そうですから、そこで余計にお金を遣ってしまうのは本末転倒です。

年金世代になってからいきなりの移住は不安すぎる

年金世代の人が海外移住する際、一般的に使うのはリタイアメントビザです。

が、前述のように現地で労働をする許可がない場合があります。

それが意味するのは、何があっても年金と、蓄えた資産で生きていくしかないということです。

事故に逢っても病気になっても詐欺にあっても、かかったお金を取り戻す方法は、とても少ないのです。

銀行預金の金利も下がっています。お金を減らす機会が多いのに対して、増やす手段は数えるほどしかない……

また、本書の取材~刊行時はたしかにアジアの物価の安さは魅力だったでしょう。

しかし発展につれどこも物価は高くなる傾向にあり、今後もその流れは変わるとは思えません。

年金しか頼るものがないと、円の相場に一喜一憂どころか生死を握られることにもなりかねません。

ましてや日本の住居を売り払った後だったり、日本の親族にも頼れないとなれば、その不安や苦しみはいかばかりでしょう。

働いて収入を得ることができる立場そのものが希望であるとは、この本を読むまでは深く考えていませんでした。

かつて存在した、政府の「日本人移住計画」

まったく知らなかったのですが、1980年代の半ば、政府の発案で、10万人もの年金生活者を海外移住させる計画が持ち上がったそうです。

その名はシルバーコロンビア計画。シルバー世代のシルバーと冒険者クリストファー・コロンブスのコロンブスを合わせた名前です。

シルバーコロンビア計画

その計画で選ばれた場所は、スペインの地中海沿いにある町、コスタ・デル・ソル。目の前に美しい地中海が広がる保養地です。

そこに大規模な日本人村を建設し、年金生活者にそこで老後を送ってもらおうというのが趣旨でした。

計画の中核にあるものは、マンション群やゴルフ場などからなるリゾート開発による経済効果。バブルの熱気に浮かれ、建設業界が意欲を見せたようです。

しかし、内外からの反発にあい、計画は頓挫しました。

海外の反応

「日本は自動車や電器製品だけでなく、老人まで海外に輸出するのか」

大変ごもっともです。

特に現地スペインの人たちからしてみれば、到底賛同できるものではなかったでしょう。

例えば、中国政府が熱海に目をつけ、大規模な投資をして再開発をする。そして裕福な中国人が大挙移住してきて、中国語だけが通じるコミュニティをつくったとしたら……。

いくら経済効果が見込めても、熱海の市民はもろ手を挙げて喜ぶだろうか。

シルバーコロンビア計画という発想のキテレツさがわかってもらえるだろう。

なんか……たとえ話なのに、これは実現の可能性もなきにしもあらずって感じですね……

当時のマスコミの論調も批判的だったようです。

「安心して老後を過ごせる環境を国内につくるのが筋ではないのか」

再度、ごもっともです。

 

日本と日本人のイメージ

本書では、日本人の海外でのふるまいが問題視され、排斥の動きも見られるという指摘がありました。

取材対象はマレーシア、タイ、フィリピンの三国でしたが、現地の人を見下したような言動をしてトラブルを起こす日本人がいるというのです。

著者はバザールの一角で、日本人男性のグループが、大声で現地人の店員を怒鳴りつけているところに遭遇したそうです。

それも言いがかりのような内容で。

日本語のわからない店員さんは怖かったことでしょう。

昔から住んでいる現地の人たちにこちらがある程度合わせるのは当然だし、こちらのやり方を押し付けようとするのは勝手きわまりなく、傲慢です。

そうして各国で日本と日本人のイメージが悪くなれば、先に出て行った人たちのために、後から行く人たちが不利になることも大いにありえます。

旅の恥はかき捨てですか?今いる自分たちだけがよければそれでいいですか?

私はそうは思いません。将来、日本を出ていくことはあるかもしれませんが、日本人であることを捨て去るつもりはありません。

オリンピック選手のように一人一人が日本の看板を背負っている、とは言い過ぎかもしれません。

でも、そこまではいかなくとも、日本人らしい、調和を重んじる心を忘れたくはないです。

この本が出てから時代は流れましたが、状況はどうなっているでしょうか。

現地の人から注がれる冷ややかな視線は、緩和されているでしょうか、それとも。

終わりに

海外移住のネガティブな面に焦点を当てた本とわかって読んだものの、途中で何度も苦い思いがよぎりました。

移住ビザ厳格化へ進む動きへの引き締まるような気持ち、「困窮老人問題」の辛苦の感、外国でもめ事を起こす態度の悪い日本人への憤慨……

どれも、自分と無関係とはいえない話題ばかりです。

 

海外移住、地上に楽園なんてないの記事でも書いたように、すべての理想が満たされるパーフェクトな場所なんてありません。

各国各種の問題があり、それを知っていて行くのと知らないで踏み込むのとでは天地ほど差があると思うため、私は海外移住に関するトラブルや失敗談を調べています。

その観点からは、本書を読んでよかったなと思いました。

また、これらのトラブルを乗り越える鍵も、きちんと示されています。まさに、失敗も成功も自分の準備次第。乗り切れば光だって見えるでしょう。

成功例の体験談がもう何例かあればさらに参考にできてよかっただろうなあ……という気持ちもありますが、値段を考えれば充分かな。

もう一つ、タイの事情に関してのページ。メインの内容が、独身男性がタイ人女性に入れ込んで身を持ち崩していくというものだったため、相対的に他の視点、情報が薄かったのが残念。

これは掲載誌が男性向け週刊誌であることも影響しているかもしれません。男性の方には参考になるかな?

以上、予想以上に苦いがよく効く薬、という趣の内容でした。

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